2006年06月22日

日銀総裁に求められる資質

福井総裁による村上ファンド投資問題で大揺れの日銀ですが、昨日、6年間の投資で得た金額が1473万円であることが明らかにされました。
政府は基本的に福井総裁の擁護論を展開しましたが、国民の半数近くはかなり厳しい目で見ているようですね。
今朝の『読売新聞』にネット調査の結果が掲載されていましたが、67%の人が何らかの形で責任をとるべきだと考えており、7割の人が日銀の今後の政策に影響が出ると考えていることがわかりました。

もちろん、福井総裁が法令違反を犯しているわけではありませんので、批判派が唱えるのは通貨のトップを司る者としての道義的な責任です。
もっともよく展開されている批判は、庶民感覚がわかっていないというもので、同時期に銀行の定期預金に預けた場合の利息との比較が引き合いに出されます。
つまり、庶民にこんな超低金利を強要している本人が、高利回りのファンドで資産を倍以上に増やしていたとは何事だという議論です。
こうした議論に対しては、元本割れのリスクがあるファンドに自ら投資したのだから、銀行預金と比較するのはナンセンスだという批判が展開されているようです。
いずれにしても、ものごとの本質を分かっていないのではないかと言わざるを得ないような次元の低い議論ですね。

以前、量的緩和解除の際に「試される日銀のコミュニケーション能力?」というタイトルの記事で、複雑で難しい政策判断を求められた際に、日銀がどのようなコミュニケーション能力を発揮するのかが今後の焦点であると書きました。
ゼロ金利を解除して金利を引き上げや引き下げによる調整を行っていく際に、「さまざまな利害関係者の思惑が交錯するなかで、的確に状況を判断して強いメッセージを発する」には卓越したコミュニケーション能力が必要とされると述べたわけです。
今回の騒動を踏まえて、福井総裁に日銀総裁としての資質が備わっていると言えるのでしょうか?

一般的にコミュニケーション能力を発揮するには、何よりも優れた情報判断力と市場からの厚い信頼が必要であることは言うまでもないでしょう。
複雑な政治経済環境を読み、ますます重要性が高まるマネーの世界を司る先進国の中央銀行総裁であれば、なおさらのことです。
米国連邦準備制度理事会(FRB)の前議長のグリーンスパーン氏などは、信頼性どころか神通力と呼んだ方が良いのではないかと思われるほどのパワーを持っていたことで知られています。
翻って日銀の福井総裁はどうなのでしょうか?
違法性の疑いが噂されるようになっても投資を引き上げず、自らの立場を支える信頼の源が何であるのかを判断できず、政権与党の政治的判断に基づくと思われる擁護に守られた人物が、適切な市場とのコミュニケーションを行っていけるのでしょうか?
道義的責任についての議論とは別に、一度しっかりと考えてみる必要があると思いませんか?
posted by SNR at 13:27| Comment(74) | TrackBack(25) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月21日

考えられないことを考えること

イラクに駐留する陸上自衛隊の来月中の撤退が決まりました。
国民的なコンセンサスがあるのかないのか分からないまま、「非戦闘地域」というこじつけに等しい理屈で派遣を続けた陸上自衛隊ですが、約2年半に及ぶ活動を一人の犠牲者も出さずにここまで来られたことは喜ぶべきことでしょう。
国際貢献が日本の外交政策にとって大きな意味を持つのは当然ですが、今回の派遣が小泉総理の武勇伝で終わってしまう話ではありません。
かつて日露戦争における薄氷を踏むような勝利が美化されてしまったように、何の検証もないまま成功体験とされてしまっては困るのです。

自衛隊員に対して具体的にどのような危険が及ぶことを、どこまで本気で想定していたのか?
もし武力攻撃などが起こった場合に、どこまで綿密な対応や出口戦略を立てていたのか?

小泉総理に聞いてみなければ分からないことだらけですが、日本に限らず民主主義国にとって海外派兵というのは大きな決断なのですから、それこそ「考えられないことまで考える」くらいの準備をしていたのかどうか気になるところです。

イランの核開発問題や北朝鮮のミサイル実験準備の可能性などが報じられているように、大量破壊兵器の拡散は今なお国際社会の大きな関心事のひとつです。
米ソ冷戦下におけるアメリカの核抑止戦略の根底には、ハーマン・カーンが唱えた「考えられないことを考える」(Thinking about Unthinkable)という考え方がありました。
つまり、核兵器を使うことができる現実的可能性は極めて低く、普通に考えれば、これは事実上「考えられない」兵器となるわけです。
しかし、核抑止論というものが成り立つためには、核兵器が最初から使用を「考えられない」兵器であったのでは相手に対する脅しになりません。
つまり、最初から「いざとなったら報復として使用できる兵器」であると考えなければ、抑止力として機能しないので、敢えて「考えられないことを考えなければならない」というわけです。

ちょっと複雑な議論に聞こえたかもしれませんが、これがまさに一触即発の心理戦が抱える本質であり、そこから「相手を本気で思いとどまらせるには、こちらも本気で使用可能性の低い兵器の使用について考えなくてはならない」という結論が導き出されるのです。
もちろん、この結果として後世から見れば滑稽に映るほど大量の核兵器が生産されて、新たな核拡散と流出の危険を招く源となっているわけです。
しかし、だからといって「考えること」さえしなければ、危険な事態が生じることもないだろうというのは安直な発想ではないでしょうか?

そもそもイラクに自衛隊を派遣したことの是非については、いろいろな議論があるでしょう。
アメリカの戦略にどこまで協力するのか、これまた議論の分かれるところでしょう。
しかし、それ以前の問題として、危険な地域へと派遣するのであれば、「考えられないことまで考える」姿勢が必要であることを、しっかりと自覚して準備をしていたのでしょうか?今後の国際貢献や安全保障のあり方を考える上でも、ただ陸上自衛隊の帰国を歓迎するのではなく、しっかりと検証してほしいものです。
posted by SNR at 14:29| Comment(0) | TrackBack(4) | 外交・国際 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月15日

これからの鉄道が果たすべき使命とは

少し前のことですが、阪急ホールディングスと阪神電鉄の統合が実現することになりました。
戦後初の私鉄再編が行われることになりそうですが、そのメリットとはどのようなものなのでしょうか?

5月24日に開かれたアナリスト向け説明会で、阪急HDの角社長は経営統合のメリットを4つ取り上げたそうです。
まず1つ目が都市交通事業による統合効果で、阪急・阪神の共通乗車券を発行すること、バス事業の一体運営によるコスト削減(操車場の統合削減など)、あるいは運行ダイヤ連動によるサービス向上などです。
2つ目が梅田地区の総合開発で、JR大阪駅北地区の再開発を、西梅田を拠点とする阪神と北梅田を拠点とする阪急が連動して行うことが想定されているようです。
3つ目が不動産事業で、住宅供給実績に富んでいる阪急と賃貸中心の経営の阪神が、統合により相互補完的に事業を進められるというものです。
最後に4つ目がリストラによる経営の効率化が挙げられるのだそうです。

さて、上記の4点について、僕自身は関西に住んだ経験がないため、どれほどのメリットであるのか実感がありません。
しかし、「村上ファンドの登場による仕方なしのものでなく、積極的な経営統合である」ということを主張するにしては物足りなさを感じてしまうのですが、みなさんはいかがでしょうか?
これまで関西でも関東でも、各私鉄会社は地域的な住み分けができており、運賃体系もビジネスモデルもほぼ横並びを続けてきました。
今回の角社長の説明も、@電鉄事業、Aバス・タクシー事業、Bターミナル駅での百貨店・ホテル事業、C沿線の住宅開発と不動産事業、という従来のビジネスモデルの枠を出るものではありません。

少し時代を遡って戦前の地下鉄に話を移してみましょう。
日本でもっとも古い地下鉄が今の東京メトロ銀座線であることは、みなさんもご存知かとは思いますが、渋谷−新橋間と上野−新橋間が別々の路線としてつくられたことを知らない方もいらっしゃるかもしれません。
上野−新橋間をつくったのは東京地下鉄道株式会社で、この会社を経営していた早川徳次という人は、新たなビジネスモデルをつくりだす才能に溢れた人でした。

例えば、建設途中で資金に行き詰ってしまったため、日本橋三越と交渉して駅名を「三越前」とする代わりに工事費用を捻出させてしまった話はあまりにも有名です。
今で言うところの「ネーミングライツ」のはしりですね。
あるいは、上野駅構内に「地下鉄ストア」という形でお店をオープンさせますが、これはJR東日本の「エキュート」や東京メトロ表参道駅の「エチカ」と同じ、「駅ナカビジネス」の発想です。
この後、神田駅、日本橋駅、銀座駅、新橋駅にも「地下鉄ストア」をオープンさせます。
現在では神田駅須田町出口方面に4店舗が残るのみだそうですが…。

このような新しいビジネスの発想を持った経営者は、もう現れないのだろうかと考えていたところ、小田急電鉄について面白い記事が紹介されていました。
小田急線は高架複々線化工事を行ってきているのですが、その高架下のスペースに系列スーパーや保育所、他社のホームセンターなどを誘致して、来年度の関連事業売上高を昨年の2倍に引き上げようというのです。
特に好感が持てるのは、商業施設だけでなく地元自治体の福祉施設や自治会館なども入居するというパブリックな要素が盛り込まれている点です。

これからの鉄道は単なる駅前や駅ナカの開発だけでなく、鉄道路線というインフラをフル活用することが求められていると思います。
そのなかでも、沿線の街づくりに貢献できるような開発を行うことと、利用客に快適で便利な通勤・通学を提供することが必要だと思います。

すでに、高架複々線化による混雑緩和に取り組み始めている小田急ですが、高架下の有効利用で街づくりに貢献して、さらにそこから得られた収益ですでに開始されている、自動改札を通過する際に携帯電話にメールで沿線情報配信する「小田急グーパス」などのサービスを充実させる。

こんなふうに新しいビジネスモデルを展開していくような発想が、他の私鉄でも次から次へと出てくれば、沿線もどんどん活気づいていくと思います。
これまでのビジネスモデルの枠を出ない、単なる規模の追求と効率化だけでは、あまりにも寂しい統合だとは思いませんか?
posted by SNR at 19:41| Comment(3) | TrackBack(6) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年06月09日

「いざなぎ」を超えた先にあるもの

神武・岩戸・いざなぎ…。
こんなことを言われても、僕もまだ生まれる前のことなので詳しくはわかりませんが、いよいよ「いざなぎ景気」(1965年〜1970年)を超えて、期間としては最大の景気拡大となる可能性が高いと言われています。

景気動向指数というのをご存知でしょうか?
現在の景気が上向きなのか下向きなのかを示すもので、さまざまな経済指標の中から複数を選択して、3ヶ月前の水準を上回る指標が全体のどれくらいあるかを算出するものだそうです。
4月の景気動向指数が発表されて、2002年2月から始まった現在の景気拡大は51ヶ月を迎えて、「バブル景気」(1986年〜1991年)に並び、戦後2番目の長さとなり、今年の11月には「いざなぎ景気」を抜くことは確実なようです。
よく新聞紙上などで言われている、「いざなぎ超え」ですね。

さて、いわゆる「いざなぎ超え」をする頃には、小泉政権も終わり「ポスト小泉」の時代に入っているはずです。
「いざなぎ超え」の後に我々の前に開けているのは、どんな日本経済の未来像なのでしょうか?

M&Aコンサルティング(通称:村上ファンド)の村上世彰代表の逮捕は、ホリエモン逮捕に次ぐ大きなショックを日本経済に与えています。
最近ようやく日本社会に根づきつつあった、ファンドの存在や経営者と株主の緊張関係が衰退していってしまうのではないかという懸念も一部には上がっています。
一方で、買収防衛策に走る企業が増えており、銀行による取引先株の持ち合いが復活し始めているようです。

そうこうしているうちに、昨日は日経平均株価が1万5000円を大きく割り込んでしまいました。世界同時株安が進む背景には、外国人投資家は国際的な金利上昇ムードを懸念して売り越しがあるようですが、日本固有の要因としても、個人投資家の萎縮が背景にあるようです。
そして何よりもその煽りを大きく食っている形なのが、ジャスダックやマザーズ、そしてヘラクレスといった新興市場の株価です。
新興市場の株価下落は止まる気配がなく、投資家はますます安定した大企業株へと流れる傾向が強くなっているようです。

そもそも、今回の景気拡大は小泉政権による「構造改革」と並行して進んできました。
「構造改革」の具体的な中身や、景気回復に果たした役割については、さまざまな意見があるとは思いますが、個人投資家にしても、新たにIPOを行う新興企業にしても、市場に参加できるプレーヤーを広げて経済を活性化させようという方向性については、多くの人が合意していたはずです。
ここ数年間、株式や経済に関するニュースが大きな注目を浴びましたが、「いざなぎ超え」をした後に描かれている地図が、かつてどこかで見たようなものであって良いのでしょうか?
今のうちにしっかりと考えておくべき問題ではないでしょうか?
posted by SNR at 21:42| Comment(5) | TrackBack(5) | 経済 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

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